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Vesica Pisces
第21章 …1。
「嘉登さん、遅い」

「ごめんごめん、なかなか人が途切れなくて、さ、行こっか」

小さい頃から見ている嘉登はずっと王子様で、嘉登を基準にしてると彼氏は出来ないなんて言われ続けている。

でもしょうがない、嘉登以上の男の子なんて現れやしない。

「あいちゃん、これクリスマスプレゼント、男どもには内緒ね」

そっと差し出された小さな紙袋は有名なコスメのものだった。

さり気ない優しさと飾り気のない笑顔はズルい。

しかも超が付く程の愛妻家だ。

「未知さんは先に行ってるの?」

「さっき仕事終わったから直行するってメールあったよ」

最寄駅から10分ほど歩いただろうか、新しく出来た高層複合ビルに辿り着き、上層階へと上がる。

エレベーターの窓から見える街並みはイルミネーションでより一層輝いていた。

ブュッフェ形式のお店で窓のそばにはピアノまで置いてある。

大きな白いツリーには沢山の飾りで溢れていて、気後れするくらい豪華だ。

荷物を預ける前にトイレへ寄り、貰った紙袋を開けると可愛いピンクの口紅が入っていた。

そっと唇に乗せると、ほんわりと赤みがさした。

鏡の中にいる平凡な自分に向かって笑ってみせるけれど、どこかぎこちない。
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