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最後の恋に花束を
第7章 大学二年の夏
8月2日の朝。ギラギラとした日差しが照りつける中、私は駅へ向かっていた。麦わらの帽子とサングラスをかけ、大きめのバックパックを背負って。
『 よっ! 』
背後から肩をポンっと叩かれ、声を掛けられる。振り向くとそこにはヒロの姿があった。彼の額はうっすらと汗ばんでいる。
「 ヒロくん!久し振り〜 」
『 おー!にしても暑いなー 』
「 タオル、貸そうか? 」
『 いやいや、持ってるから大丈夫 』
ヒロはニコリと微笑むと、自分のリュックからタオルを取り出し汗を拭き取り、他愛の無い世間話が始まる。
二人で駄弁りながら駅に着くと、改札口に遙の姿があった。
『 おはー。ユミちゃんは? 』
ヒロが辺りを見回しながら遙に問い掛けると、彼は頭を掻きながら苦笑いした。
『 いやー、それがさ… あいつ 』
遙の様子を見ていた私は、つい首を傾げる。その瞬間にパチリと遙と目が合い、彼の瞳に引き込まれる。
『 来れなくなっちった。』
ぎこちなく笑う彼。その言葉にヒロは、" また喧嘩したのかー? " なんて声を掛ける。私は、彼と彼女がよく喧嘩をして不仲になっているのを知っていた。けれど、仲直りすれば互いにSNSへ写真を載せていたりしていたから、それを見るたび胸が締め付けられる思いだった。
「 じゃあ、三人で海行くの? 」
彼の瞳に引き込まれた私は、視線を逸らすことなく彼に問いかける。自分から発した言葉に、胸が高鳴っているのが分かった。
『 そ、三人だけど、いいよな? ヒロ 』
彼の視線がヒロへと移る。遙のその表情は、いたっていつも通りで違和感なんて皆無だ。
『 ん?俺は構わねーよ!カナちゃんも居るしな 』
『 ってことで、男三人で楽しもうぜ! 』
そう言って遙は私の肩をグイッと寄せて、肩を抱く。いつものスキンシップ。けれど、久し振りのスキンシップ。思わず私の心臓は飛び跳ねる。
「 っちょ… 私は男じゃない! 」
『 えっ?そうなの? 』
『 そんな事してっから、ユミちゃんと喧嘩するんだろー?』
『 ははっ、確かに! 』
ヒロの一言に、笑みを零し身体を離す彼。
暑い夏の日。
私は自分自身でも分かるほどに、真っ赤に熱を帯びた頬を隠すように俯いた。