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最後の恋に花束を
第7章 大学二年の夏
「 かき氷、ひとつください 」
午後2時 海で遊び疲れた私はひとり、海の家の売店でかき氷を買っていた。振り向けば、遙とヒロがビーチボールで楽しそうに遊んでいる姿が小さく見える。
『 はい、お待たせ 』
彼等を眺めていると、後ろから店員さんに声をかけられる。小麦色に焼けた肌が印象的なお兄さんが注文していたかき氷を手渡しで出してくれたので、慌てて受け取った。
「 あっ、ありがとうございます 」
受け取った私は、カウンターのそばの空いているイスに腰掛け、レモンシロップのかかったかき氷を頬張る。海の方を見ると、遙とヒロがこちらを見ている。すると彼等は一度顔を見合わせ、何か喋ると競争し合うように足早にこちらに向かってきた。
『 あれ、一ノ瀬先輩…? 』
彼らの姿を眺めながら、かき氷の冷たさを噛み締めていると誰かが私の名前を呼んだので、その声のする方へ視線を移した。
そこには、もう見たくない " あの人 " が居た。
「 えっ… ユウくん… 」
食べようとすくい取っていたかき氷が、驚きのあまり ピシャッ と太ももの上に落ち、溶ける。
そう、私の青春の苦い思い出。
消したい、過去。
高校生の頃の後輩の彼。
『 久し振りじゃないですか先輩!奇遇ですね! 』
「 あっ… ははっ、そうだね、久し振り 」
思わず視線を逸らし苦笑いで返事をする。彼の事を直視することができず、俯いて太ももに落ちたかき氷を自分の手で拭った。
『 もしかして、ひとりですか? 』
得意げに言葉を続ける彼。
不安な気持ちが一気に溢れ、鼓動が早くなる私。
「 いやっ… ひとりでは… 」
『 イチノセー、それ何味? 』
するとその時、耳元で聞き慣れた声がした。
驚いて顔を上げ振り向くと、遙とヒロが立っている。ヒロはメニューを眺めていて、遙は私に顔を寄せて手に持っていたかき氷をニコニコと見つめている。そう、耳元で聞こえた声の犯人は遙だ。
かき氷を見つめていた彼は、私に視線を移す。私の目の前の人間を無視しているかの様で。彼の瞳は、彼の表情とは裏腹で… 冷たく暗い色をしていた。