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エメラルドの鎮魂歌
第7章 木漏れ日の道
「…どういう意味?」
凛とした眉を藍は顰めた。
「…ここを離れてはいけないし…第一、八雲のそばを離れては生きてはいけないんだ」
「どうして?八雲さんと瑞葉が仲良しなのは分かるけど…それじゃあまるで、恋人同士みたいじゃないか…」
瑞葉が困ったように儚げに微笑った。
「…八雲がいなければ…僕は死んでいたかもしれない…。生まれた時から僕はあの家で見放された存在だったから。
…八雲が僕を守ってくれなければ…」

…朧げな記憶が蘇る。
高熱に魘される瑞葉を、夜通し看病してくれた八雲…。
霞む視界の中で、男の深い瑠璃色の瞳が必死に瑞葉を見つめていた。
ひんやりと冷たい手が、額に触れる。
「…瑞葉様、大丈夫ですよ。もうすぐお熱は下がりますからね」
熱に魘されて見る悪夢が恐ろしくて心細くて、八雲に震える手を伸ばす。
「…やくも…ここに…いて…」
八雲の大きな手がしっかりと握りしめられる。
「八雲はここにおりますよ。ずっと…瑞葉様のおそばを決して離れません」

母親の千賀子も見舞いにはこなかった。
千賀子を介して和葉に病気が感染ったらどうするのだと、薫子が禁止したからだ。
…ただ、八雲だけが…あの美しい男だけが、瑞葉のそばにいてくれたのだ。

「…だから、八雲は僕のすべてなんだ…」
回想から覚めた美しいエメラルドの瞳は、艶めいて潤んでいた。

藍は訳の分からない焦れるような感情に襲われ、瑞葉の腕を捉えた。
…三つも年上なのに…こんなにか細い…。
強く掴めば、折れてしまいそうだ…。

少年の藍の胸に、瑞葉に対する庇護欲と独占欲めいた複雑な気持ちが芽生える。
「瑞葉。俺は戦争が終わったら青山さんとパリに渡る。
一緒に行かないか?」
エメラルドの瞳が驚愕に見開かれる。
「パリに?」
「パリで絵の勉強をするんだ。瑞葉も行こう。青山さんならきっと賛成してくれる。
…俺は瑞葉はここにいたら、なんだか不幸になるような気がするんだ。
だから、俺と一緒にパリに行こう!」
「…そんな…無理だよ…僕は…」
藍の強い手が瑞葉の華奢な肩を引き寄せた。
…精巧な人形のような美しい貌が目の前に現れる。
魔法にかけられたかのように、瑞葉に惹き寄せられる。
…伽羅の薫り…甘い吐息…。

…唇が触れ合いそうになったその時…。

「…お茶をお持ちいたしました」
ノックもなく、その男は入って来たのだ。






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