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エメラルドの鎮魂歌
第7章 木漏れ日の道
瑞葉はするりと、藍の腕から離れた。
「…ありがとう、八雲」

美しい所作で茶器をテーブルに並べ、八雲はにこやかに詫びた。
「お話の途中で失礼いたしました。
…お邪魔でしたか?」
「ううん、大丈夫だよ。八雲」
瑞葉はややぎこちなく笑った。
茶器のセットが終わると、八雲は瑞葉の手を軽く握り椅子に掛けたままのガウンを羽織らせた。
「お手が随分冷たいですね。もう少し、暖炉のそばに椅子を置きましょう。
…さあ、温かいお茶で温まられて下さい」
過保護すぎるような世話を焼かれても、瑞葉は鬱陶しそうな貌ひとつしない。
…寧ろ、ほっとしたような…蕩けるような甘い眼差しで八雲を見上げていた。

不意に、妬心めいた意地悪な気持ちが湧き上がる。
「…ねえ、八雲さん。
もし、俺が瑞葉をパリに連れて行くって言ったら、あんたどうする?」
「藍さん…!その話は…」
瑞葉は慌てて、藍を窘めた。
「ここにいたら、瑞葉はずっと歩けない振りをしなくちゃならない。
人目を気にして…ずっとここに…まるで閉じ込められたような暮らしをしなくちゃならない。
だから俺は、瑞葉をパリに連れて行きたい。
外国なら、瑞葉の外見は普通だ。伸び伸び暮らせる。
…あんた、反対する?」

一瞬の戸惑いも見せずに、その美しい執事は答えた。
「いいえ、藍様」
「八雲…⁈」
瑞葉が信じられないように小さく叫んだ。
深い瑠璃色の瞳が、冴え冴えと語り出した。
「瑞葉様が心底それを望まれるのならば、私は反対はいたしません。
…私は単なる執事です。決定権は瑞葉様にあります。
すべては、瑞葉様がお決めになることです」

一礼をし、部屋を退出しかけて、振り返る。
「…けれど、ここを離れられるということは…私と永遠にお別れするということになります。
それを瑞葉様がお選びになるのでしたら、私は甘んじて受けましょう」

…丁寧だが、突き放すような冷ややかな言葉であった。
「…八雲…」
瑞葉は蒼白な貌で、縋るように男を見つめた。
男は最早瑞葉を見ることはせず、きちりとした完璧なお辞儀をすると、しなやかに部屋を出て行ったのだった。



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