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エメラルドの鎮魂歌
第2章 その薔薇の秘密は誰も知らない
…この美しいひとだけは、自分が命に代えても護りきる。
このひとの、命も名誉も…何もかも…。
お互いが命尽きるまで…決して離れずに…。

「…苦しいよ…八雲…」
きつい抱擁に、瑞葉が小さく訴える。

「…瑞葉様…。お願いがあります」
優しく瑞葉を見下ろし、囁きかける。
「何?八雲」
「私と…ワルツを踊っていただけませんか?」
「ワルツ?」
驚いたようにそのエメラルドの瞳を見張る。

「ええ、ワルツです」
瑞葉は慌てて首を振る。
「でも…ワルツなんて踊れないよ」
「大丈夫。私が教えて差し上げます」
白い頬を軽く抓ると悪戯めいた微笑みを送り、蔓薔薇のアーチの下に置かれたテーブルまで歩き出す。

胡桃の木のアンティークのテーブルの上には、重々しい年代物の蓄音機が置かれている。
物珍しそうに瑞葉は眺めた。
「…蓄音機…。こんなところで?」
蓄音機に慣れた手つきでレコードをセットしながら、八雲は答える。
「和葉様でしょう。
時々こちらでお昼寝なさりながらレコードを聴いていらっしゃいますので」
「和葉らしいな…」
無邪気に笑う瑞葉がいじらしくなる。
…本来なら瑞葉様も、そんな風に自由気ままに過ごせたはずなのだ…。

気持ちを切り替え瑞葉の前に立ち、恭しく手を差し伸べる。
「さあ、私と踊ってください。瑞葉様」
瑞葉は白い頬を薄紅色に染め、そのエメラルドの瞳を輝かせ小さく頷くと、そっと白い手を差し出した。
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