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亜紀と蓮
第1章 プロローグ
「作品」はふたりの名前や住んでいる場所、亜紀さんが働く病院や蓮君の通う大学などは固有名詞がわからないよう編集され、必要なモザイクや擬音もかけてある。しかし、亜紀さんと蓮君の顔と身体は一切隠していないし、ふたりは承知している。そして全ての映像は自撮りか、ふたりがお互いを撮り合っているものだ。そこに僕の指示や演出はまったくなく、すべて普段のふたりの姿を映し出していた。僕は亜紀さんと蓮君の自然な日常を描くため、ふたりの愛の映像を繋ぎ合わせた。

深夜、作品をアップする約束の時間になった。逸る気持ちと興奮を抑えながら、僕は作業を進めていた。作品のタイトルは英語で「SAYAKA」と付けた。簡単なキャプションを書き添えると、僕はアップロードのボタンをクリックした。もちろんタイトルとキャプションはふたりと事前に相談済みだ。そして少しの時間ののち、作品がサイトにアップされた。

サイトのトップページに亜紀さんの鼻から下の素顔が現れた。新着映像のサムネイルは口を半開きにした亜紀さんの恍惚の表情だった。僕はまた強く勃起していた。その瞬間、僕のスマホが鳴り蓮君から連絡が届いた。ふたりが「SAYAKA」を見始めた合図だった。サイトをリロードすると閲覧カウント数が上がっており、既に何人かが映像をダウンロードしていた。そして僕もサムネイルをクリックすると、ふたりの愛の生活がモニターに再生された。

病院の待合室の前を白いナース服の亜紀さんが、マスクをつけて歩いている。手にカルテのような書類を持ちすれ違う人に会釈していた。画面が変わり手作りのお弁当が映る。そして自撮りでお弁当を食べる亜紀さんの顔。マスクを外した素顔の亜紀さんがいた。

場面が変わり大勢の人が間隔をあけて座る食堂の全景。ご飯の量が違うが亜紀さんと全く同じお弁当が映る。自撮りの蓮君が美味しそうに食べていた。そして大学の授業風景らしき映像と、キャンパスを歩く自撮りの蓮君の姿が続く。

場面は夕方になり、病院の駐車場に亜紀さんが現れた。通用口から歩いてくる亜紀さんはTシャツに緑のシャツ羽織っている。スリムなジーンズ姿で車に乗り込むと、夕方の街に走り出した。流れる風景をバックに、運転する亜紀さんの横顔が映っている。
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