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悪戯な思春期
第3章 王子様の刺客は忍者

(う……)
「や……じゃないです」
 私は素直にカーディガンを被る。
 スポンと頭を服から出すと、幸せそうに目を細める瓜宮の顔があった。
(やっぱり犬みたい)
 少し肌寒そうに腕をこすりあわせる。
 私はやっと気づいた。
「瓜宮、寒くない!?」
「え?」
 私は大慌てで脱ごうとした。
 だが、こんな時だけ忍者性を発揮する瓜宮に光の速さで止められた。
 一瞬もつれ合ったが、彼に勝てる訳もなく、私は落ち着かざるをえなかった。
「いいって……僕のせいだし」
「あ、確かにね」
 しばしの沈黙。
「あのさ」
「え?」
「授業行きなよ、天草さんだけでも」
「瓜宮は?」
 即刻聞き返した私はちょっと失礼だったかもしれない。
「僕は……忍者らしいからサボってもなにも言われないよ」
「……ナニソレ」
「天草さんさ……彼氏はいいの?」
「は!」
 真っ赤になる私。
「いや……だからそのキスマーク……」
 忘れていた。
 これほど彼氏いますアピールは他にないだろう。
「う……うや……うん、まぁ」
「僕といたのがバレたら酷いことされちゃうよ」
「ナニソレ」
 瓜宮は腕を組みながら深刻な顔をして言った。
「男はそういうとき豹変するから」

 瓜宮千夏。
 やはりよくわからない。
 そもそも何故私を連れ出したのか。
 キスマークを指摘するため?
 それだけなのだろうか。
「はやく戻りな? 上着は返すの下駄箱にでも入れればいいから」
 そう言って旧会議室の壁にもたれかかる彼は、少し切なく見えた。
 隠れた右目はどこを見てるんだろう。
「ボタンも弁償するから」
「いいよ、このくらい」
「僕がしたいんだ」
 なんだろう。
 この雅樹を連想させる強引さ。
(いや、もしかしたら瓜宮は雅樹よりも……)
「じゃね」
「さよなら」
「……瓜宮」
「なに?」
「私だけ呼び捨てってなんかやだ」
「ハハ……さよなら天草」
「そう、それ」
 まるで幼なじみのように、照れながら手を振って別れた。
 そろそろ授業が終わる頃だ。
 掃除が始まる前に行ったら雅樹に捕まるのは確実だ。
 やましいことは無きにしもあらず。
 なるべく雅樹に会わないようにしよう。
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