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秘蜜に濡れて
第6章 絡まる糸
涙の理由はあいりにもわからなかった。

ただ後から後から溢れてくる涙は悲しいからではない気がした。

差し出されたハンカチで涙を拭い、顔を上げるともうその人は居なかった。

スタジオに戻ると、本番まであと30分ということで既に出演者が集まっていた。

その中に撥春の姿も見える。

そして撥春の腕に絡みつく女の子はモデルの律だ。

息を呑みながら俯くあいり。

「元気?」

顔を上げるとそこには竜がいた。

「こんばんは」

「こんばんは、撥春のとこ行かないの?」

あいりは曖昧に言葉を濁す。

「盗られちゃうよ」

竜はにやりと笑ってわざと意地悪な言葉を発した。

「ふーん、その顔に惚れたんだ」

横から顔を覗き込んだ竜は、それだけ言い残して輪に戻って行った。

「あいり!」

気付いた撥春が駆け寄って来た。

その背後に睨む律が見えると、あいりは視線を逸らした。

「来てくれてありがとう!最高のパフォーマンス見せるから!」

「はい」

「…本当は今すぐ抱きしめたいけど、我慢する…」

囁いた一言であいりに笑顔が戻った。
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