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他人の妻、親友の夫
第6章 超える一線
部屋に入ると当然ながら布団が敷かれていた。
二組の布団の距離は夫婦のそれであった。
物言わぬ布団がやけに艶かしく見えてしまう。

「少し酔ってしまいましたね……」

理依はそう言いながらお茶を淹れる。

「ありがとう……」

受け取った湯呑みを片手に窓際に座った。
温泉街の夜は喧騒もなく、静かに夜を愉しむ人たちがちらほらと行き来するだけであった。


志歩と秋彦は隣の部屋にいる。
先ほどのキスの感触がまだ口の中に残っていた。
『刺激を得ることで事態が変わるかもしれない』
夫婦交換をする際に言った秋彦の言葉を思い出す。
彼の言う通りだった。
失ってはじめて気づくものを気付かせてくれる。
もちろん志歩を失ったわけではない。
しかし消失感ははっきりと胸に刻まれていた。

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