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1000文字で綴る男と女の物語
第16章 『メビウスの時』
床がきしむ古いアパートの部屋。
襖一枚隔てた隣の部屋では小学3年生になる娘の頼子が眠っていた。
午後10時。
離婚して初めて出来た年下の彼。
一週間振りに私に会いに来てくれた。
力強く突き上げる彼の腰の動きに、思わず高い声が出てしまう。
襖の向こうを気にしながら口を手で塞ぐ。
頼子が起きてしまわないように。
襖は建て付けの悪さで、合わさり目に大きな隙間が出来ている。
「美智子、今日はいいだろ? 中に……」
「だめよっ、あっ、だめっ」
彼の動きが更に早くなる。
彼が終わりに近づいているのがわかる。
また襖に目をやる。
幼かった頃の記憶が断片的に思い出される。
あの時も私は今と同じような古い小さなアパートで母親と二人で暮らしていた。
ある晩、私は、襖の隙間から母親が若い男としてるのを覗いていた。
母親の上げる声に目が覚めたのだ。
狭い視野の中、母の脚の間に腰を打ち付ける男。
腰が波打つように動いている。
その動きに合わせるかのように、母の口から漏れる苦しそうな声。
でも、今、わかる。
苦しがっているんじゃなかったと。
母の両手が男の頬を挟み、下から口を押し当てる。
男が母の名を呼び、言う。
「恭子、いいだろ? 中に、な?」
母は喘ぎながら答えた。
「だめよ、だめ、今日はだめ」
男の腰の動きが更に早くなる。
母の細い体に太い腕が回り、二人の体が隙間なく密着する。
「あっ、だめよ! だめっ!」
会話の意味はわからなかったが、母は嫌がってる、子どもながらにそう思った。
広げた白い脚の間で、浅黒い男の腰だけが激しく動いている。
それが今も目に焼き付いている。
「外に、ね、外に出して」
細い腕が男の背中に回される。
「いいだろ? な? 本当はお前も欲しいんだろ?」
「だめよ、だめだからね」
口を尖らせ、首を振る母。
男の顔がゆがむ。
「ああっ、いくっ!」
「だめっ! だめっ!」 
母の声が震える。
「ああっ! いくぞっ!」
「ああっ! だめよっ! だめっ!」
母の首が激しく左右に揺れる。
母は嫌がってる!
苦しそうな顔をして嫌がってる!
「あああっ、出るっっ!」
「だめっっー!」
男が唸り、母が叫んだその時だった。
「お母さんっ!」
私は襖を開けたのだ。
「ああっ、頼子! だめっー!」
私は頼子の泣き顔を見ながら、彼が私の中で脈打つのを感じていた。


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