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第89章 あか～実在したかしてないかの遠いある夜～

爪先の剥がれかけた赤いネイル
足元の真っ赤なネイル

お気に入りのヴィヴィアンのアクセサリー
ずいぶん長く
それはとても長く長くつかいこんで
めっきが剥げてきて

失った記憶
失った君
覚えている記憶

それはただただ
あなたを好きって
もっともっと愛してるって気持ち

外は雨音

「月が綺麗ですね」

なんて言ってみたけど月なんてない

窓辺に腰掛けて煙草なんて吸ってみたけれど

「にっが……」

吐き出した息は白くて
煙の白さだけじゃなくて
あぁ　もう冬なのかって

夢なのか幻なのか
涙が溢れてきて

目が覚めたら貴方がいた

あぁ　怖い夢を見た

貴方を失いたくない

あぁ　これは

実在したか
してないかの
遠いある夜のはなし