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【マスクド彼女・序】
第4章 二日目・三日目【微弱な引力の作用】


『私の顔には……醜い傷跡が、あります』



 と、あのキスの直前、唯はその様に正直に告げている。


 マスクで顔を隠す理由。もしそれが、そうなら。

 唯に対し、或いはその過去に対し。更に言うのなら、現在の彼女の深層の部分の闇に対して――。

 正直は只ならぬ想いを、禁じ得なかった。

 それ故に、直後。重ねられた唇は、正直がそれまでの人生で経験した感触とは、全くもって違う。似てもいない。同じく『キス』と表現することに、抵抗を覚えるまでに……。

 不思議と涙が出そうになった。でもそれは、同情ではなかった。何か得体の知れないものが、口から流れ込んだ気がした。それに耐えかねたように、感情を揺さぶられていたのだ。

 何一つ、上手くは言えない。でも唯は最早、正直にとって『只の唯』ではなかった。そう思えばこそ、気になってしまう。唯がそれを『嘘』としたことを――。
 
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