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縄の記憶
第1章 入門

その日気がつくと、わたくしは縄だるみの屋根の庭におりました。
毎日縁側から見上げた山の中腹にある寺院。その荘厳な屋根の曲線が「縄だるみ」と呼ばれることを知ったのはごく最近のこと。「縄」という言葉がなぜかわたくしの心を掴んで離しませんでした。
どの道を辿ってここに着いたのかは覚えておりません。ただ、真っ赤なツツジが一面に咲き誇った庭は、どっぷりと浸かった日常から私を解き放つのに充分なものでした。
地に足が付かない心持ちでツツジの間をさ迷っておりますと、ふと、白い着物に身を包んだ初老の和尚様がこちらをご覧になっていることに気が付きました。小柄で柔和なそのお顔を見ると、心の枷が外されていくように感じます。
「娘さん。何ぞの御用で来られたのかの?」
柔らかな問いかけに、何と答えて良いのか分からず
「ツツジに呼ばれて参りました」とだけお応え申し上げました。和尚様は笑みを絶やすことなく
「寺の中で一服していかれますかの?」とお誘いくださったので、お言葉に甘えさせて頂くことにいたしました。
これが奈落への道とは知らずに…
毎日縁側から見上げた山の中腹にある寺院。その荘厳な屋根の曲線が「縄だるみ」と呼ばれることを知ったのはごく最近のこと。「縄」という言葉がなぜかわたくしの心を掴んで離しませんでした。
どの道を辿ってここに着いたのかは覚えておりません。ただ、真っ赤なツツジが一面に咲き誇った庭は、どっぷりと浸かった日常から私を解き放つのに充分なものでした。
地に足が付かない心持ちでツツジの間をさ迷っておりますと、ふと、白い着物に身を包んだ初老の和尚様がこちらをご覧になっていることに気が付きました。小柄で柔和なそのお顔を見ると、心の枷が外されていくように感じます。
「娘さん。何ぞの御用で来られたのかの?」
柔らかな問いかけに、何と答えて良いのか分からず
「ツツジに呼ばれて参りました」とだけお応え申し上げました。和尚様は笑みを絶やすことなく
「寺の中で一服していかれますかの?」とお誘いくださったので、お言葉に甘えさせて頂くことにいたしました。
これが奈落への道とは知らずに…

