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小田桐菜津子と七つの情事
第1章 最初の情事
魔が差した、としか言いようがない。
ビジネスの顔を保ったまま、彼女に礼を言い、正規の代金も受け取らずに部屋を辞した。逃げるように。
こんなこと、初めてだった。
ホテルの地下にクルマがあるにも関わらず、気を落ち着かせようと、川沿いの遊歩道を私は歩いた。
秋の夜風が頬をそっと撫でてゆく。
川面には、夜の街のライトがいくつも揺れていた。
全く、俺は何をしているのだ、と自問自答した。
ファム・ファタール(運命の女)。
不意にそんな言葉が頭をよぎった。
そうか、あれは運命の女だったのか。
俺のせいじゃない。
あの女が俺を狂わせたのだ。
そんな風に都合よく、責任を転嫁できれば、と思った。
私はそして、二度と、異性の客の部屋で施術をしない、という禁忌を自分に課した。