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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
会計はお互い譲らない言い争いの末じゃんけんで勝ったあたしが支払った。それでも納得しないらしい朱羽が、リーフパイやらクッキーやら、日持ちするお菓子の包みをひとりで買って、あたしにくれた。
「俺も買ったから。だから疲れた時に食べよう」
本人は無意識の、キラースマイル。
さらにざわめく店内から慌てて朱羽の腕を引いて、外に出た。
もっと表参道を見ようという気持ちはなかった。
これから病院に戻って、宮坂専務から話を聞きたい……その思いは、以心伝心のように朱羽から告げられ、あたしも言おうとしていたから頷いた。
「いつでもデートできるしね。初めてのデート、凄く楽しかった。同じスマホカバーも買ったし、LINEも出来るようになったし。なによりあなたを好みの服で包むというのが、ぐっとくるね」
朱羽は笑いながら、タクシーを拾った。
さりげなくあたしの腰に手を回す。
「細い腰。今度は折ってしまうかもしれないから、覚悟していてね」
にやりと笑う朱羽。意味するところがわかって真っ赤になった時、タクシーが来て朱羽が荷物をすべて持ち、後ろに乗り、あたしもその横に座る。
東大付属病院へ――。
土曜日の午後には、この病院には診察を待つ患者もいない。
閑散とした1階から入院病棟用のエレベーターに乗って、社長がいる上階のボタンを押す。
「会社や社長の様子を見ながらだけど……来週、ドライブに行こう?」
エレベーターが動き始めると、朱羽があたしの肩を抱きながら囁くように言った。
「夜空、いい場所知ってるんだ。星が綺麗で、あなたと見たいなといつも思ってた。その後、俺のマンションに泊まって? ……抱きたい。本当はこんな状況じゃなかったら、毎日抱いていたいけれど、それは我慢するから」
「うん……」
直球にあたしは顔を赤らめた。
「あなたを不安にさせないよ。愛しているってこと、離れないよということ、あなたの身体に刻み込むから」
「ん……」
朱羽の肩に顔を凭れさせるようにして朱羽に少し甘えた時、チンと音が鳴ってエレベータが開く。
そこにいたのは――。
「あ……」
手にいつものマルボロの赤い箱を持って、1階の喫煙室に行こうとしていた、私服姿の結城だった。