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ホントの唄(仮題)
第6章 急かされて旅立つ
『先輩だって、もう四十でしょう。再就職だって、簡単ではないと思うなあ。しかも、会社のやり方に異を唱えている退社経緯を知れでもしたら、おそらく真面な企業なら二の足を踏むのではないでしょうか。地元を離れるお考えでしたらともかく、その手の噂は近隣の同業種の間で広がるものですしねぇ。僕からも、冷静な対応をお願いしたいものです』
その噂の発信源になりそうな男が、うるせーよ。
と、太田のヤツに怒りを覚えたところで、逆に俺の腹は決まった気がした。斎藤さんらには悪いが、そうと先の状況が知れた以上、俺が戻ろうなんて思う筈もない。
「一応、話はわかった――が、たぶんお前の願いに沿うことはないぞ」
『そうですかー、それは残念だなぁ』
太田は然して残念そうでもなく言った後、ガラリと話題を変えて話し始めるのだ。
『ああ、そうそう。それにしても、例の彼女には驚かされたなあ。一体、あんな娘と、どこで知り合ったんです?』
突然、真の話題を振られ、俺も思わず口籠る。
「いやっ……別に、アイツは……単なる遠い親戚みたいな、そんな感じで……まあ、気にするなよ」
「なにを言ってるんです。気になるに決まってるじゃないですかぁ。先輩があんな美人を連れているだなんて。とにかくビックリですよ――色々な、意味でね」
思わせぶりなその口調が、俺には気になっていた。
「太田……それは、どういう――?」
しかし、そう口にした俺の言葉を遮ると、太田はこう告げて通話を終わらせている。
『ともかく――先輩の復帰の件では、僕が窓口になっています。もう一度、じっくりお考えになってください。色々なことも含めて――どうか、懸命なご判断を』