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ホントの唄(仮題)
第9章 対峙して、知るもの
「全く、あのバカ……」
唖然として、そう呟いた時だ。
「元気そうですね――真」
向かいの席で、上野さんが微笑む。
結局は彼女の見守る前での、通話。その声量から、相手が真であることもバレてしまう。
ヤバい……。仮にもその義母の聞いてる前で、バカとか……。
「えっと、それで――さっきの話の続き、なんですが」
先程までのマジな雰囲気は、当然すっかり台無しである。俺は半笑いで誤魔化しつつ、とりあえず話を戻そうとした。それはそうと、何処まで話したっけ……?
すると――
「承知いたしました」
「は……?」
「ですから、先程のお願いの件でしたら――私が承知いたしました、と」
上野さんは言いながら、免許証までをも俺に返そうとしている。
「あ、あの……いいんですか?」
「はい。私も新井さんを、信頼してみようと思います」
「いやぁ、それは恐縮なんですが。しかし、また――どうして?」
余りにあっさりと承諾した、その態度を不思議に思う。
それに対し上野さんは、当初とはまるで違う柔らかな表情で言った。
「私は今まで、天野ふらのをメジャーにしたい一心で、やってきました。それが彼女の為でもあると、そう信じながら。でも、いつの間にか大事なものを、見失っていたのかもしれません。そして、それを見つけてくださったのが、たぶん――貴方なのでしょう」
「まあ……そうなの、かな?」
そんな風に言われると、まるで自信などないが。ともかく――
「あと、三日。真のこと、どうかよろしく」
残り三日の猶予を、俺は得ている。