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第10章 想い、知らされて

　それを、唄い――想いを、告げて。


「ごめんね……今は、これだけなんだ」


　真の言葉は、天高くへと向けられていた。

　しかし、それに続く言葉は――


「私、ほんのちょっとでも――届けられた、かな？」


　はにかむような顔で、俺に問う。

　誰に届けたかったのかは、詩を踏まえれば、口にするまでもなくて。

　真にその名を与えた――その人へ、と。


　今の光景と、唄声を耳にした俺は「たぶん、届いてる」と口に出す寸前、ふと思い留まっていた。

　この俺に、奇跡を信ずるようなロマンティシズムがある訳もなく。ならば、それは俺の本心の言葉ではないから。

　そう、気まぐれな山の天気が、たまたま――それは飽くまで、偶然の出来事である。

　だから――


「さあ、な。でも――あるじゃないか、真の――」


　――ホントの唄。

　そう続く言葉を、真は察して。


「どうかな……わかんないよ」


　照れて零した笑顔は、それでも何処か満足げだ。


「……」


　その顔を前に、俺は――。


　理屈では幾度も、わかってるようなことを言った。それを、本当に何度も己に向かって言い聞かせ続けた。

　しかし、今となっては違う。

　大人として、理屈を捏ね、状況を顧みながら――これは、そうして得ていた結論とは決定的に、違った。

　例え奇跡とは言わなくとも――俺は見、そして聴いてしまった――の、だから。

　俺は――改めて当然のことを、鮮烈に――思い知らされていたのだ。


　真の立つ場所は、俺の隣りではない――と。