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ホントの唄(仮題)
第11章 縋り付き、頼む
※ ※
真は話をしなくなって、一人で色々と考えているらしく。それを邪魔するのが嫌で、俺はとりあえず部屋を出ていた。
話はまだ、ついてなどいない。真の方が、それに納得した様子もなく。明日のことについても一応は話したが、果たして『付き合って』くれのるか――それは、微妙だった。
旅館の狭い通路を進むと、向こうから来ていた若い仲居が立ち止まり、通路を広く明けてくれる。それに「どうも」と軽く会釈をして更に進むと、やや開けたスペースに行き着く。窓から中庭の庭園を望める、その席に俺はドッと腰を落ち着かせた。
「……」
随分と、嫌な言い方をしたな……。
真の怒った顔を思い浮べると、やや胸が締めつけられるような感覚を覚える。できれば嫌われたくはないし、本音を言えば元も子もないが、まだ別れたくはないのだ。
じゃあ、なんで――って。そんなの、上野さんとの約束とか。何れ真の方からあっさりと「バイバイ」されるのは、自分にとってこの上もなくダメージであるとか。挙げてみれば、それらは身も蓋も無かった。
だから――甚だ不本意ではあるが、自分の人生というやつと、向き合うことを決めた。結局は大人として、恰好をつけたかっただけなのかもしれない。
――ピ。
「――何度も悪いな、拓実」
俺は携帯を手に、昨夜と同じ番号に発信。
「それで、明日のこと――話してみてくれたか?」
高崎拓実(たかさき たくみ)は、三人兄弟の末っ子であり、俺の弟だった男だ。