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第3章 異常な日常の場面で

　当方目下、他人にかまけている場合ではない、無職の中年男である。

　そんな俺が情に絆されてしまったのが、真という名の若い女だった。何でもその生業は有名な歌手であるらしく、失踪中の彼女の話題は既に世間を賑わせ始めている。

　何となくの成り行きで暫くの間、寝食を共にしようとする二人だったが……。

　俺の中に不安が無いと言えば、それは大嘘であり。というか寧ろ、不安だけしかないと言う方がよっぽど正しかった。彼女に何かを感じ入ってしまったのは確かだが、それだけの理由で全てがオールオッケーとなる筈もない。


　とりあえずの昼食にと、連れて来たラーメン屋にて。俺は早くも、先行きに暗澹たるものを感じることになるのだ。



「うわー、きったない店」


　俺が馴染みにしてる、その店での――それが真の第一声である。

　厨房の中の店主が一瞬、顔をしかめたのがわかった。


「いいから、さっさと座れ」


　俺は小声でそう言うと、真を奥の席まで引っ張ってゆく。


「でもさぁ。来る途中に、もう少しマシそうな店あったけど」


　まだそんなことを言う真は、今度は俺のことを苛立たせていた。


「なるべく人目を避けようと思ったんだよ。その点この店なら、いつ来ても空いている――」


　俺が、そう言いかけた時だ。


　タン！　――と勢い、テーブルの上にコップの水が置かれる。


「ご注文は？」


　苦虫を噛み潰したような顔が、俺たちの傍らに立っていた。