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潮騒
第8章 正一郎の過去 ー引潮ー
四十九日を過ぎても、菊乃は毎日寝る前には仏壇に線香を上げ、今日あった事を剛志に報告する。

暑なってきたよ、もう夏やねぇ。
蝉の声が聞こえるよ。
そんな、他愛ない報告。

よく蝉の抜け殻を集めては肩につけたり、頭につけてケタケタと笑っていた剛志。
村の大きな子が蛇の抜け殻を振り回すのは怖くて、菊乃の着物をぎゅっと握って後ろに隠れた剛志。

起きている時は1人で遊び、菊乃の手を煩わせることはないが、眠くなると「母ちゃん」とぐずり、添い寝してやると安心して眠る。寝かしつけて離れようとすると、着物や手をきゅっと握ったまま、離そうとせず、仕事を残して眠るわけにいかない菊乃は、剛志を起こさぬようにその手を外すのに往生したものだった…

思い出すのはそんな、何気ない日常の、幸せな風景ばかり。

一日の報告を終え、二階の寝間に入ると、もう寝ていると思われた正一郎がまだ起きていた。
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