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霞草
第6章 二人の想い
「本当に?ひと月先、またここに来ること、約束してくれるの?」
彼女は、小指を立てた手を、僕の目の前に出してきた。
「えっ?」
「指切りげんまん。」
「するの?」
言いながらも、僕も小指を差し出した。
彼女が、小指を絡めてきて、しっかりと結ぶ。
「約束ね。」
小指は、結ばれたままベンチにそっと手を置いた。
彼女が、僕がひと月先までいるのかを気にしていること、
そして、繋がったままの小指。
たぶん、彼女も僕に、好意を寄せてくれていると、思っていいのだろう。
本当なら、今、自分の想いを告白するタイミング。
でも、僕には、出来ない。
家出して、浪人して、
いずれは、家に帰らなければならない。
医者になるか、ならないか、の前に、僕は人として、かなり未熟であることを知らされた。
こんな中途半端な状態で、想いを伝えても、その先が自分でも見えないのだ。
だから、僕は未だに彼女に自分の名前すら教えていない。
彼女は僕の事を「あなた」としか呼べないのだ。
僕は想いを口にしないと決めた。