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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)
教育実習生六人が、職員室の前に立って挨拶をする。男三人、女三人。皆ここの卒業生だ。大学は違う子もいるけど、たいてい誠南大学に在籍している。
実習生の中に、里見くん以外にも見知った顔があって驚く。大学時代のときの塾の教え子だ。稲垣くんは、化学の道に進んだのか。国語、全くできなかったからなぁ、と心の中で笑う。
高校だけの免許の子は二週間、中学高校の免許を取る子は三週間、それが実習期間。里見くんは、中高の数学の免許を取得予定なのだろう。
大学名や担当教科、意気込みなどを口にして皆無難に挨拶を終える。中には声の小さい子もいたが、実習が終わる頃にはきっと改善されるだろう。
実習生たちは、それぞれの担当クラスの担任の近くへ折りたたみ椅子を持ってきて座る。里見くんは佐久間先生のそばに座り、手帳を広げた。つまり、私の正面だ。
この一連の動作の間、一度も里見くんと視線は合わない。さっきの告白は夢だったんじゃないかと思えるくらい、普通だ。
あぁ、夢なら気が楽になるのに。