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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第10章 しのちゃんの受難(六)
宗介が少し私のほうに寄ってくる。避けて歩道の端に寄ろうとすると、「手を」と一言だけ言って、右手を出してきた。
「……繋ぐ、の?」
「繋がないの?」
意地悪な視線。
この姿を生徒や先生、保護者に見られてしまったら? 相手が実習生だと知られてしまったら? そんなことを一瞬考えて躊躇する。
たぶん、それさえも、宗介はわかっている。わかった上で、手を繋ごうと言っている。
度胸があるのか、考えなしなのか。私にはまだわからない。
「繋ぎ、ます」
私の左手が宗介に引っ張られる。さっきまでラーメンを食べていたためか、宗介の手のひらはあったかい。
手を繋ぐのは、嫌いではない。
宗介を見上げると、嬉しそうにニコニコ笑っている。そんなに嬉しいかと聞いたら、きっと宗介は「当たり前」だと答えそうだ。
横からの笑顔に、ちょっと、ドキドキする。今なら、いろいろ聞いてもいいだろうか。私は彼のことをまだあまり知らない。
「宗介は、いつから私のことが、その……」
「出会ったときから、小夜のことが好きだよ」
私が教育実習で学園に来たときかな? そのときは宗介を指導したりはしていないから、挨拶をしたときに一目惚れをしたというやつだろうか。
「だから、こんなふうに手を繋いで歩くことができて嬉しい。幸せだよ、本当に」
「……はい」
「しかも、俺の誕生日に小夜がプレゼントされるなんて、六年前の俺に教えてやりたいくらい」