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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第11章 【回想】里見くんの決断

「梓はアメリカで元気にやってる?」
「さーあ。相変わらず手紙もメールもないわよぉ」
「梓らしいねぇ。あ、ラングドシャ美味しい!」
「あら、ほんと。小倉トーストは名古屋のモーニングで出されるから、コーヒーにも合うかしら」

 三人の話を聞きながら、必要なことはメモを取る。試験勉強なんてできるわけがない。
 梓、というのが夫婦の娘だということは知っている。けれど、小夜先生と友達だったとは知らなかった。

 ブレンドコーヒーを飲みながら、小夜先生は楽しそうに夫婦に話しかけている。
 その姿に、嫉妬さえ覚える。絶対に、俺には向けてくれない笑顔。うらやましい。
 醜い。こんな浅ましい感情が自分の中にあるなんて、本当に、醜い。

 まだ、二年。もう、二年。焦がれても、欲しくても、まだ手に入れられない。
 なんて酷い鎖で、あなたは俺の心を縛り付けたんだ。
 苦しい。楽になりたい。
 五年は、長すぎる――。

 けれど。
 完全に狂ってしまうには、まだ早い。

「じゃあまた来るね!」

 会計を済ませて、学園のほうへ歩いていく小夜先生の後ろ姿を見つめながら。俺は一つの決断をする。

 五年は長い。
 ならば、期間を縮めよう。
 四年、いや、三年とちょっと。教育実習のときに、何とか、彼女を手に入れるんだ。
 そのために、できることは今のうちにやっておこう。単位取得も、学園への根回しも、高村礼二のことも。できる限り。

 あと、二年。
 全力で、やれ。里見宗介。やるんだ。
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