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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第12章 しのちゃんの受難(七)
「そ、里見くん、いつ私と出会っていますか?」
「覚えていませんか?」
「申し訳ありませんが……思い出せなくて」
本当に、六年前の記憶なんて、余程のことがない限りは覚えていない。
宗介は、ズボンのポケットから何かを取り出して、テーブルの上に置いた。茶色い、合皮製の、どこにでもあるような。
「……キー、ケース?」
「六年前、俺の妹が迷子になりまして。助けてくれた女の人と、俺の誕生日プレゼントを選んでいたのだと、見え見えの嘘をつき通されたことがありました」
「ああああっ!」
思わず、立ち上がってしまう。
余程のこと、あった! それは覚えている! 女の子の顔だけ覚えて、彼女の名前もお兄さんの顔も忘れていたけど!
「えっ、じゃあ、あのときの女の子のお兄さんが、そーすけ、里見くん!?」
「はい」
「わぁ……すごい偶然! キーケース、大事に使ってくれていたんだぁ! 良かった!」
宗介は、微笑んで水を飲む。
なるほど、六年前の、一昨日。宗介の誕生日前日。礼二と付き合い始める少し前だ。
「出会いは偶然でも、それ以降のことは偶然じゃありませんよ」
「……そ、里見くんの行動力による結果?」
「はい。ここまで来るのに六年かかりました」
「長かった、ですね」
「本当に」
一目惚れでした、と宗介ははにかんだ。
一目惚れでここまで相手に近づける人は、そういないと思う。本当にすごい。すごい行動力だ。
すごすぎて、やっぱり怖い。