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Oshizuki Building Side Story
第7章 Turning point of love!

「鹿沼の相手、お前でよかったと思っている」
笑いも落ち着いた頃、両肘をテーブルに置いた結城さんが、目だけを俺に寄越して笑った。
「お前でなければ諦められなかったと思う、正直。お前だったから、結果、真下を……衣里を女として意識した。お前には、親父を手に入れられないあいつと、鹿沼にふられた俺とは、傷のなめ合いとかカモフラージュとか思っていたかもしれねぇけど、俺の心は衣里に癒やされて、一緒に未来を歩きたいと思っている。本気に。鹿沼を好きになれたから、衣里を意識出来た。そう考えたら、鹿沼を好きになれてよかったと思う。鹿沼を否定してねぇから、無理もしてない」
「結城さん……」
そして彼は、にかっと笑って見せた。
「だからお前は罪悪感なんか感じなくていいから。俺に鹿沼とのこと惚気ろ。そして困ったことは俺に相談しろ。お前溜め込む苦労性タイプだから、無駄に神経すり減らしそうで。鹿沼の長年の親友として、解決策出せるかもしれねぇんだ、俺を頼れ」
もしかして――。
俺が、彼がまだ陽菜を好きで、真下さんはカモフラージュなのかと窺い見ていることを、彼は気づいていたのかもしれない。
結婚をすると陽菜と共に公言していても、やはりどこかで、この結婚を陽菜が信頼する結城さんが快く思っていないのではという不安があることを、彼は見抜いていたのか。
俺は多分、結城さんにも祝福されたいんだろう。
彼の辛そうな顔を見たくないのに、陽菜を手放せない俺は、結城さんを犠牲にして、彼が夢見た陽菜との幸せを手に入れようとしているから。
俺の方こそ、彼に対して罪悪感があった。
だから今まで彼とふたりで飲んでも、俺は陽菜とのことは口に出せずにいたんだ。それが境界線(ボーダーライン)だと。

