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癒らし屋日記 #葵さん
第5章 窓の外には東京タワー
窓の外は春の雨。
シャワーを浴びて、ひと段落して、呼吸を整えて。
ふたりして、裸のまま、シーツにくるまって、互いの体温を分かち合う。
窓の外には、グレイに煙る増上寺の森と、東京タワーが見える。
恐らく会社では、同僚たちが一生懸命働いているだろう。
このホテルを出れば、いつもの日常がそこにあるだろう。
けどぼくらは寝具にくるまったまま、一言も話さない。
話す必要がないから。
言葉など交わす必要がないから。
ただ、深い満足感とけだるさの中で、こころを赦(ゆる)し合った者同士だけがもてる、ささやかな安息の時間を味わっている。
愛などではない。
そういう感情的な盛り上がりはない。
けれど、それに似た、なにか不思議な連帯感が、ぼくたちの間にはある。
雨が、しっとりとすべてをハーモナイズ(同調)させていた。