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君を好きにならない
第11章 一筋の涙

「向井…さん?」


エンジンもかけず
フロントガラスを
ぼんやりと見つめる俺に
真琴が声をかけた


「あ、あぁ
エンジン、かけるよ」



「あの…

すみませんでした。
さっき、変なこと言って…」



「あ、いや…」


本当のことを話してもいい

そう思っているのに
いざとなると勇気がなくて

俺は
ハンドルに手を乗せたまま
うつむいて目を閉じた



「違ってたら
失礼なこと言いました。
すみません。
気にしないで…」



「いや、いいんだ」



「だって・・・・」



「違くねーから」


その言葉を吐いた瞬間
血圧が上がったように
顔が熱くなるのを感じた


真琴は今

どんな顔をしてるだろう


『やっぱり』

とも

『そうなんだ』

とも言わず


真琴からの返事はなかった



「ずっと黙ってて
悪かったな。

一緒に…住んでるのに」



気持ち悪かったか?

心の中で
そう呟いたけど
喉の奥につまって
そのセリフは
言葉にできなかった



「いえ…

言いにくいことだし…」



お前が
男相手じゃないってわかったから
・・尚更



「あぁ・・
言えなかったよ。

周囲に知ってるやつは
ほとんどいないんだ」



「向井さん」



「・・ん?」



「向井さんがその・・
隠してることで辛かったり
僕に色々気を使ってたら
申し訳ないなって思って
僕からあんなこと言いました。

あれから向井さん
僕の事
少し・・避けてたみたいだし

僕の友達も・・そうだったから」



うつむいていた顔をあげ
そう言ってくれた真琴に
横目で視線を合わせると

心配そうな顔をした真琴が
俺を見ていた



「あ、でも心配しないで
僕は向井さんが
そうでも全然平気だし
そ、それに
僕は女の人がいいけど
友達もそうだし
そーゆーの否定しないし
うまく言えないんだけど
僕は今までと変わらないし
だから・・」



「・・ありがとな、真琴(苦笑)」



『軽蔑しない』と言わず
『否定しない』と
真琴が言ったのは
俺に気を使ってくれたのかもしれない

一回りも年下の真琴に
心配されてるとか・・


情けないな


そう思いながらも
俺の胸には
真琴の

『女の人がいい』

という言葉が
つき刺さっていた
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