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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

「俺は、皆の共感はどうでもよくて、お前だけに伝わればいいと思って音楽を作ってきた。だから音楽家としては限定的で、失格だと思う」

「あたしはきっかけでしょう? あなたがどう思おうと、あなたが作った音楽に人々は共感した。あなたが人の心を打てる音楽を作れた証拠よ」

「……時々夢で見る。組織から抜け出せずに、両手を赤く染めている俺が、赤い鍵盤のピアノを弾いていると、音がうなって悲鳴の音しか出てこねぇ。だけど俺は狂ったようにピアノを弾いていて、悲鳴ばかりが合奏する」

「……っ」

「穢れた俺が作る音は、どこまで頑張っても穢れた音にしかならないんじゃねぇかって思う。俺自身、浄化出来ずにいまだ組織の悪夢から抜け出せねぇんだよ」

 あたしは彼の頭を撫でながら抱えた。

「もしかすると、いや恐らくは……朝霞が今縛られているところが、俺と棗が居た……元祖エリュシオンだ」

「え……」
 
 突如現実に返り、どきっとした。

「月曜に朝霞と食事した時、朝霞はそれを暗に訴えていた」

――そう。ひとの命すら認めないのが、冥府〝エリュシオン〟だ。

「冥府はエリュシオンではねぇだろ。エリュシオンは楽園と訳されている。元エリュシオンという名前の会社にいた奴なら、エリュシオンの意味を知っているはずだ」

 確かにそうだ。

「恐らく俺の素性もわかられている。解体したはずのエリュシオンが、AOPを伴って復活した……恐らく棗はそう睨んでいる」

「じゃああの黒服達は、エリュシオンのメンバーということ?」

「そこはもっと調べねぇと断定出来ねぇかも。黒服ともうひとつの勢力がお前を拉致しようとしている。朝霞がお前を守るために俺を使ったんだから、どちらかは間違いねぇだろう」

「組織のエリュシオンは、一体なにを目的に……」

「組織を支援出来る金持ちが、バックについていることは間違いねぇ。朝霞が柘榴を鬼子母神に例えたのなら、もしかすると……」

 彼は続きをなにも言わなかった。
 
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