この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第10章 Changing Voice
*+†+*――*+†+*
棗くん情報で――。
水曜日の夕方、牧田チーフが搬送先の病院から忽然と消えたらしい。
もしも意識を戻した本人の意志で病院から逃走したのなら、巨体が夜中のナーススーションを通り過ぎて誰も気づかなかったというのもおかしいし、仮に窓から飛び降りたにしても巨体が楽に通り抜けできる、窓の大きさでもなく。
ただ、血痕だけが点々と床に残されていたようだ。
結局牧田チーフは行方不明となり、なぜ茂や藤田くんを使ってパソコンを見させたのかわからずして、茂と藤田くん、そして水岡さんも会社に来ずに日々だけが過ぎたことになる。
そして辞めたと言えば、隆くんもだ。
突然田舎に帰るとおばちゃんに言っていなくなったという。
それも水曜日のこと――。
そして翌る日の木曜日に、社長がようやく他の重役達とエリュシオンに現われた。
幾ら宮坂専務に言われても、やはりあたしの中で現社長は、エリュシオンを悪しき方に歪めさせた悪役であり、このいつも通りのふてぶてしい態度や、やけにぎらぎらとした時計や指輪をつけた、オールバックにしているチンピラ風で、やや猫背気味にポケットに手を突っ込むあたりを含めて、どうしても堅気の善人には思えない。
彼は、前社長の息子というだけで、社長の座に君臨している……あたしはこの二年、ずっとそう思ってきたから、そう簡単に認識は変わらない。
「皆、下に集合」
部長のひと声で、朝から上のフロアの企画部の社員達は、下のフロアに行かされて、下にて社長のお言葉を頂戴することになった。