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月光の誘惑《番外編》
第1章 月下の桜(一)

「いくらだった?」

 店の外で財布を出してきたあかりさんの手を引く。ひやりと冷たい手。すべすべで柔らかい手。
 値段なんか、見ていなかった。適当に「二千円」と言っておく。たぶん、半分には全然足りないけど。

「翔吾くん、お会計……財布から出せないよ!」
「あとでいいよ」

 そんなの、あとでいい。なくてもいい。忘れてもいい。
 早く。
 早く。

 早く――あなたを抱きたい。


◆◇◆◇◆


 通りから少し離れた裏通りに、ピンクと青のネオンライトが見える。あかりさんの手を引いて、さっさとエントランスへ向かう。

 空きは、あった。二部屋。
 安いほうを選ぼうとするあかりさんの指より先に、高いほうのボタンを押す。二〇二号室、か。
「私が払うのに」と笑っている彼女の手を引きながら、俺も笑う。
 女の子にラブホ代を出させるほど、俺は馬鹿じゃない。

 エレベーターを待つのももどかしく、階段を登る。あかりさんは文句も言わずについてくる。あとで文句くらい、言われてもいい。いいから、早く。早く。
 早く――。

 点滅している部屋番号を見つけ、二〇二号室に先にあかりさんを押し込む。
 パンプスをポイと脱ぎ捨て、荷物とダサジャケットをソファに投げて。あかりさんは、手を大きく広げ、大きなベッドの前に立っていた。

「おいで、翔吾」

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