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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
「今は、楽しい?」
「うん──ううん。楽しくて幸せ、かな」



 それからというもの、神依と優沙はお互いの家を往き来して日常を遊ぶ仲になった。禊と童もまた同じように時間を重ねて、親交を深めていく。禊に取ってもそれは、一つの大きな変化だったかもしれない。
 小島を訪れる優沙は小さな神々にも敬意を持って振る舞い、日嗣や、神依を訪ねてくる国津神とも直に接して少しずつ打ち解けていった。
 口を開かなければ美人の類い、とは禊の言だったが、一方で日嗣は安堵もしていた。優沙は神依の負担にならない程度を見極め、時間を掛けて徐々に徐々にその内向きな世界を広げていってくれたのだ。
 恨み言があるとすれば……もっと早くに手を差し伸べることはできなかったのかという、その一点。
 けれども優沙の眼差しは、時に常人たり得ぬ大叔父の見せるそれとよく似通い──長い時を経て、黄泉帰りを果たした今だからこそ満ちた友情なのだと理解するに至った。

 「……私のこの手はきっと、大事なお姫様を乗せて天に向かう、月の舟漕ぐ桂楫を握るためのものだったんだわ」
そしてよく晴れたある月夜の晩、優沙は縁に座し、あの六絃の御琴をかき鳴らしながら自身の禊にそう語る。
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