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裸身
第6章 ふたつの顔の女
清香にSとMのどちらが好きか?と問えば、きっと困惑するだろう。


清香にとってSMという概念は無いに等しいからだ。

SもMも誰にでも持ち合わせているもので、それに執着していないのがこの夫婦なのだ。
セックスのスパイスのようなもの。
白いご飯ばかりではなく、たまにはチャーハン、たまにはリゾット、そんな感じなのかもしれない。


二人には暗黙のルールがある。夫以外には、妻以外には唇を重ねない、というもの。

二人にとって、唇と唇を重ねることが何より神聖で、愛の証たるところなのだろう。

躯を貫いたり貫かれたりするほうが、裏切り行為のような気がするのだが、それにも増して唇というパーツは侵してはならないということなのだろう。わからないでもないが……



放心状態から覚めた清香は、薄いガウンを身に纏い、冷蔵庫から炭酸水を取り出すと、ひとくち含んだ。

夫の唇に重ね、夫の喉を潤す。
夫が口に含み、清香の喉を潤す。


『この唇は私だけのもの。あなたと私の愛の源…』

『この唇は俺のもの。不浄は許さない。』

『えぇ、もちろんよ。あなた、愛しているわ。』



再び唇を重ね合う。



二人の官能と快楽の時間はゆったりと流れていった………



静かに

深く

秘めた激しさの中

混ざり合う唾液の水音と

小さく響く破裂音だけ。


他には何も介在するものはなく、漆黒の夜に溶けていった………




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