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契約的束縛・誘惑なる秘密
第24章 香港ー周到なる罠
◇
仁科様から八神様をとは言われたが、八神様は控え室から全く動こうとはしない。
いや、ずっと考える感じのまま、仁科様と同じように。
「八神様、中国茶か紅茶でもお淹れしましょうか?」
「…………」
「八神様?」
「……え、あ、そっそうね、香港だから中国茶が良いと思います」
……上の空。
自分の話は聞いているようだが、内に籠って反応が遅く、相打ちをしてまた考え出す。
まるで自分は居ないかのように。
(口を挟める立場じゃない。
それでなくとも、一度余計な事を言ったせいで……)
『杞憂』
自分がこんな事を言ってしまったが為に、八神様達を困惑させたのは確か。
それなのに、これ以上混乱させる発言は控えるべきなんだ。
(仁科様の言い分は、八神様が一人で外に出ないか見張れという意味。
外に出る雰囲気が無いんであれば、自分は静観しているしかない)
一時間以上、ソファーの隅に座り動かない八神様。
調教師の際どい衣装そのままに、ただ寛いでいるとも見えなくはない。此は客観的な視点。
だが一年以上一緒に行動していた自分から見れば、気落ちし悩む、その様に見えてしまう。
(後五分早く到着出来ていれば、本郷や宮野に怪我などさせなく、八神様を悩ませる事もなかった)
空港での到着便の混雑。
このほんの僅かな遅れが、こんなにも大きく影響するなんて思わず、こんな事になるんだったらファーストクラスでも使えば良かったと、自分でさえ思ってしまう。