この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
雨に滲む心
第7章 その言葉は最初から
その女は黒髪をかき上げながら
不意に俺を見てこう言った
『マンハッタンのカクテル言葉を知ってる?』
当然答えはこうだ
『知りません』
いくら酒好きだからって
カクテル言葉なんて
そんな気色悪いもので意思表示するなよ
言いたいことがあるなら
はっきり自分の言葉で伝えろ
面倒な女だ
わざと遠回しな言葉を投げて
男の反応を窺う
そして試す
男がどれだけ自分を理解してくれているかを
あんたは俺に何を期待している
単なるボディーガードの一人にすぎない俺に
何を望んでいるんだ
セレブ社長さんの暇つぶしなら
他を当たってくれよ
あんたといると調子が狂う
だけど本当は知っていた
最初から知っていたんだ
あんたが俺に言った
あの意味深な言葉の意味を
なあ
それは俺に向けられた言葉なのか
そう聞いたら
あんたは俺をクビにするのかな
それとも専属にでもしてくれるか
マンハッタンのカクテル言葉は
『切ない恋心』
そうだろ?