この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
雨に滲む心
第1章 ふたりの合言葉
カウンター越しに交わす合言葉は
『いつものを』
貴方は決まって私の名を呼び
男らしいのにどこか色気を感じさせる綺麗な顔で
『いつものね』
そう言って微笑むの
私の気持ちなんて知らずに
目の前に差し出されるのは
マッカランのラスティネイル
グラスを手に取り口に含むと
まるで貴方が私の中に入ってくるかのよう
そんなはしたないことを考えながら
喉の奥にカクテルを流し込む
BGMはBill Evans
貴方の師匠が好きだというそのピアノジャズは
私の心を包み込んで
繊細な音色の中に閉じ込めてしまう
身体が熱くなっていく気がするのは
強いアルコールのせい
心地よい音楽のせい
それとも
貴方の優しい視線のせい
後悔はしない
貴方に恋をすること
貴方に想いを伝えること
後悔なんかしない
この先どんなことがあっても
今夜も囁くわ
ふたりの合言葉