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初恋
第3章 記憶のかけら
それにしても、まだ飲めないのか。
「まだ熱いから……」
もう熱くないだろさすがに。
このまま缶を凝視した状態で歩かせると危ないから、道の端に寄せとこう。
向かいから来た自転車から彼女をかばった後で
待っててやるから、落ち着いて飲めと
街路樹の横で立ち止まらせた。
葉っぱがひとつも無いケヤキの木の下で、彼女は恐る恐る……缶を傾ける。
ズズっと音をたてて
「……っ」
結局 熱かったらしい。顔をしかめた。
どんだけデリケートな舌なんだよ。
「……お、い、しい」
で、また感動してる。
ココアに二度も感動できる君にこっちは感激ですよ、ホント。
ココアを飲んだ彼女の口から、温まった息が白くなってこぼれていた──。
同時に赤さを増した唇に、見とれた。
「……寒いね、今日」
何故いま気付いた?
このタイミングで彼女が呟いた言葉に、俺は理解に苦しむ。