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初恋
第3章 記憶のかけら
「何か、家をつきとめる手がかりは無いのか」
「……」
「何でもいいから」
「赤い、屋根……」
いちおう、真剣に考えている。
俺にさとされて落ち着きを取り戻し、僅かな記憶をたよりに情報を探っていた。
何の拍子にまた思い出すかわからないから、俺は急かさず、彼女のほうから話すのを待つ。
すると彼女からは、断片的な記憶がたどたどしく言葉となって零れてくる。
「赤い屋根の上が、お気に入りで」
木といい屋根といい、どんだけわんぱくなんだよこの子は。
「二階の窓から、屋根の上に……行けるの。そこに、よく寝転んでた」
「……そこから見える風景は?」
「風景? ふう けい……」
俺は尋問するみたいに、彼女の意識を誘導していた。
彼女が手がかりにたどり着けるように。そして……彼氏だという男の話から、少しでも遠ざかるように。