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第10章 暗闇の底に
無になる。

我を忘れる。

頭に血がのぼる。





…この時のオレの感情を

正確に表す言葉は

ないと言って良いだろう。





そして思う

時に人は
怒りが一気に頂点に達する、或いは

悲しみや絶望の頂点…そんな状況に陥ると


逆に妙に
冷静になってくることがあるモンだ…と。





何も感情が
湧かないかのような気分になって



オレは後部座席のノブに

そっと手をかけた

音を…一切たてないように。





当然のようにロックが掛かっている





オレは車に背を向けて
すぐに辺りをさがす





『…』


重量感と大きさのある石を拾い上げた




〃こんなもんかな…〃




少し離れて肩を回し

そのまま運転席の透明な窓に向かって

一気にそれを投げつけた






長いこと鍛え上げてきた肩を

十二分に使って…

・・・フルスイング












グシャッ・・・!!!





…透明のガラスが白くなって

ヒビと、真ん中に少し穴が開く。






ドラマや映画じゃないが

案外上手くいくモンだ…。





よっしゃ、一発…

くらいの冷静な気持ちでいた。








冷静…?





後になって思えば


相手がもし危ないモンでも持ってたら

逆上させてしまったら…と考えると


最悪の事態を招く強行手段だ




冷静なんかじゃなかったな。






だが、それどころではない

これしか…方法がないのだと




ヒビで白くなった窓を

そのまま肘や拳で
バリン バリンと割って

手探りでサッサとロックをあける。




一瞬のことだと思うが

オレにはキレイに

スローモーションにみえた。




自分の手や肘から出血してるようだが
痛みも何も、まるで感じない



オレは迷わず後部座席のドアを



…今度は一気に・・・思い切り引いた。







ガララ…っ…!!!







『……?!』



『…。…』



マヌケに

下半身を出して


アイルに股がる男が

突然の出来事が全く理解できない

といった顔でオレの方を向いていた


『…~~~…な……?!』

『……』




有無を言わせず…


いや





有無を言わせる必要など




まったくない





〃こいつ…〃
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