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銀木犀の香る寝屋であなたと
第3章 婚姻
 少女時代、一樹と出会い、二人で夜を過ごした日々を思い出す。

 銀木犀の下で優しい甘い香りを嗅ぎながら外国のおとぎ話の話をした。

 一樹は澄んだ綺麗な声で何か詩を歌ったりした。

 最初で最後の冒険。


 珠子の目の前が涙で滲む。今まで異性に恋をすることなどなかった。
きっと一樹に恋をして気づかないまま兄妹になってしまったからだろう。初めて気づくこの気持ちが結婚初夜だとは何という皮肉か。(ううん。これでよかったの……)
 一樹を想うと少しだけ痛みが緩和されてくる。(一樹兄さま……)


「少し動くよ」

 文弘はゆるゆると腰を前後させる。切り裂かれるような破瓜の痛みはもうなかった。自分の内部が引っ張られたり押されたり、物理的な感覚があるだけだ。

 珠子は一樹のことを想う。
しばらく文弘が同じ動きを続けた後、「そ、そろそろ、終わる、よ」と呻くように言い、「かっ、あっ……さっ、ふっ」と声を発し果てた。

 珠子は背中に文弘の重みを感じながら、いつの間にか意識を失っていた。
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