この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
銀木犀の香る寝屋であなたと
第6章 再生
慎ましく肩を寄せ合って生活をしている藤井家に、危惧していた戦争の影響が押し寄せてくる。
まず珠子の勤めている洋食屋『イタリア亭』の店長、井川三郎が出兵した。
残された珠子にはもちろん店を維持することなどできず、生きて帰ってこれるかわからないという弱気な三郎は、店の調理器具や家財道具を手放し作った金を珠子に渡した。
「店長……」
「受け取ってくれ。店や土地は借り物だからやれないけれど」
三郎はひげをそり、やつれた顔で珠子を見つめる。
「ほんとは君と一緒になりたかった……」
寂し気な表情の三郎に珠子はどう声を掛けていいかわからなかった。文弘よりは自分を愛していてくれたのだろうか?
しかし珠子自身の気持ちは三郎に応えられそうになかった。
「生きて、生きて帰ってきてください」
非国民とののしられようが三郎に対する一番強い気持ちは『生きてほしい』という願いであった。
ふっと伏し目がちな笑顔を三郎は見せ、「井川三郎、行ってまいります!」と勇ましく声を張り上げ敬礼し立ち去った。
珠子はまた見送ることしかできない自分の無力さを痛感した。
まず珠子の勤めている洋食屋『イタリア亭』の店長、井川三郎が出兵した。
残された珠子にはもちろん店を維持することなどできず、生きて帰ってこれるかわからないという弱気な三郎は、店の調理器具や家財道具を手放し作った金を珠子に渡した。
「店長……」
「受け取ってくれ。店や土地は借り物だからやれないけれど」
三郎はひげをそり、やつれた顔で珠子を見つめる。
「ほんとは君と一緒になりたかった……」
寂し気な表情の三郎に珠子はどう声を掛けていいかわからなかった。文弘よりは自分を愛していてくれたのだろうか?
しかし珠子自身の気持ちは三郎に応えられそうになかった。
「生きて、生きて帰ってきてください」
非国民とののしられようが三郎に対する一番強い気持ちは『生きてほしい』という願いであった。
ふっと伏し目がちな笑顔を三郎は見せ、「井川三郎、行ってまいります!」と勇ましく声を張り上げ敬礼し立ち去った。
珠子はまた見送ることしかできない自分の無力さを痛感した。