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終止符.
第16章 愛しい人
奈緒は目を閉じ、逞しさを増した純の胸に頬を当ててみた。
速まる純の胸の音が奈緒を安心させてくれる。

純の背中に両手を回し、優しく揺れるように抱き合うと涙が奈緒の頬を伝い純の上着を濡らした。


「奈緒さん。」

「はい。」

「大好きです。」


純の腕に力が入った。
その力は心地よく奈緒の身体を解(ほぐ)してゆき、長く眠っていた身体の奥が目覚め始めたのが分かった。


「なるべく早く来てください。」

「……」

「やっぱり僕が来ようかな。」

「ふふっ…」

「おかしいですか?」

「いいえ…嬉しいの、夢みたい。」


純は腕の力を緩めて奈緒の目を見つめた。


「寂しくて死にそうでした。」

「ごめんなさい。」


純は奈緒の前髪を手でそっと分け、その額に唇を優しく押し当てた。

目を閉じると、涙で濡れた睫毛に純の唇が下りてきて、涙を拭ってくれた。


「僕、待ってますから。」


純は静かに耳元で囁くと、少し頷いて奈緒から離れた。


「はい。」


奈緒も頷いた。




名残惜しそうに純がドアから出て行った後、隠れていた知佳が廊下を駆けてきた。


「私、決めました!」

「…何を?」

「彼を、育てます。」

「えっ?」

「奈緒さんの彼みたいに素敵になってもらいます。」

「あの、べつに育てたわけじゃ…」

「いいえ、奈緒さんの為に成長したんですよ、ごく自然に……あぁ…いいなぁ…」


知佳は羨ましそうに奈緒を見つめてため息をついた。


「成長…」


純が年を重ね、男性としての魅力を誰もが認めるようになるにつれ、自分は老いてゆく…


「奈緒さん?」

「なんか不安…」

「不安はぶつけるべきですよ。」


知佳が帰り支度をしながら言った。


「私はそうしてるんです。」

「そうなの?」


奈緒も身支度を整えながら知佳を見た。


「拗ねたり文句を言ったり、意地悪したりするんです。うふふっ…」

「できるかしら…」

「甘える事できますか?」

「さぁ、わからないわ。」

「ぜひ、がんばってみてください。」


知佳が社内を見渡して電気を消した。


「あ、クリスマスの次の日、有給取っていいですよ。」

「えっ?」

「いつも残業してるんですから誰にも文句は言わせません。」


知佳はドアに鍵を掛け、奈緒にウインクをして見せた。

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