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幸せの欠片
第3章 夫とのカンケイ
 一瞬、電車の中に戻るのがためらわれたけれど、今までほどの混雑がなさそうだったのと、何よりもあの男達と同じ駅で降りることが怖かった。

 次の停車駅が帰宅への最寄の駅だ。

 この格好では、途中で座るわけにも行かず、タクシーにも乗れない。

 結局、電車の中に戻るしかなかった。

 とにかく一刻も早く家に帰って、シャワーを浴びたかった。
 


 帰宅すると、まず浴室に向かった。

 ワンピースとブラジャーを脱いで脱衣カゴに入れる。

 ストッキングとショーツは、捨てる為にビニール袋に詰めて口をしっかりとくくった。

 勢いのいいシャワーのお湯で体の隅々までザァーザァーと流すと、電車の中で起こったことが、水と一緒に流れて行くような気がした。

 それにしても・・・・・・と思う。

 両手を拘束されたり、ハサミを使って下着を切られたりと、かなり激しいことをされたのにもかかわらず、手首に少しだけ紐の痕が残っている以外には、どこにも怪我を負っていなかった。

 男達は、こういうことに慣れているのかもしれない。

 本当なら、次の被害を防止するために、警察に届け出るべきだったかもしれないけれど、警察へ行って、今日、自分の身の上に起こったことを話すのには、恐ろしく勇気が必要だった。

 どこまでを痴漢と呼ぶのかは知らないけれど、男のモノを挿れられてしまったら、強姦と呼ぶのではないかとも思う。

 でも、電車の中で相手が二人以上いたと言っても、怖くて顔もよく見られなかったし、自分の体が反応していたから怪我もなく挿入されたのではないかと言われたら、否定することも出来ない。

 嫌だ。

 やっぱり警察になんて行けないと思った。

 夫には相談すべきかもしれなかったが、それも出来ない。

 警察に行くべきだと言われたら困るし、それ以前に、そんなことを話す勇気がなかった。

 いつもより、ずっと長めのシャワーを浴びて出て来ると、鏡に映った自分の姿を点検した。

 その夜も、夫の悟は帰宅が遅くなると言っていた。

 週末だから何かの会議があったり、接待があるとか、こちらから細かい事情は尋ねなかったが、大まかなことは聞いていた。

 麻衣もOLを経験していたので、ある程度、仕事の状況は想像がつく。

 躾の厳しい家で育ち、父親も厳格だったため、夫に逆らうことはなかった。


 
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