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幸せの欠片
第4章 新しい躾
  翌日の土曜日は、曇りがちだった。

 明け方にシャワーを浴びてから、もう一眠りしようと思ったが、あれこれ考えている内に目が覚めてしまい、起きることにした。

 お腹がペコペコだった。

 気持ち良さそうに眠っている夫には声を掛けずに、朝食用の卵や野菜、チーズ、ハムなどをはさんでトーストを作り、夫がいつ起きても食べられるよう準備をしてから、自分用のトーストを作る。

 夫は朝、コーヒーを飲むことが多かったが、たまに紅茶を飲むと言うので、飲み物の準備はしなかった。

 迷ったけれど、コーヒーは口臭がすることを考えると、一人で先に飲むのが憚られたので、とりあえず紅茶を飲むことにした。花の香りのするお茶が好きなので、レディグレイよりも更に強めの花の香りがする茶葉を使っている。


 ところが、お茶を淹れて、食事を始めようとしたところへ夫が起きて来た。

 夫のお皿を温めようと、急いで席を立つ。

「ごめんなさい。すぐに支度をします」

「いや、先に食べていいよ」

「だって、一人じゃ味気ないから、あなたも一緒に食べてください」

「そうか。じゃあ、お茶を淹れてくれ。食事はその後にする」

「はい……、あ……」

 昨夜、夫に「はい」と返事をするように言われて、特に意識をしてはいなかったのに、その延長で返事をしたようになった。

 夫がニヤリと笑い、スィッチが入ったようにも見えた。

「そうだ。『はい』の方がいい」

「だけど、『はい』と答えると、その続きで敬語で話してしまうような気がするの」

「昨夜、そうするように言ったつもりだが……」

「え?」

「そうか……、躾が出来ていないからな。仕方がない。今日と明日は家にいるから、しっかり憶えさせてやるよ」

「はい……」

「お茶だ」

「はい」

 麻衣は、急いで湯沸かし器のスィッチを入れると、ティーポットに茶葉を入れた。

「新聞」

「はい、今取ってきます」

「遅いだろう、それじゃあ」

「ごめんなさい、あなた」

 そう言って、夫の悟に手渡すと、さっと腰を抱かれ、お尻をギュッと掴まれた。

 麻衣は、すぐに昨日の痴漢の行為を思い出し、夫の掴み方が似ていると思った。

「あなた、痛いです」
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