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幸せの欠片
第2章 痴漢
「秋の日はつるべ落とし」と言うように、日の落ちるのが早くなった。

 夫の帰宅は今日も遅いだろうことを思えば、特に急ぐ必要もないのだけれど、日が暮れてから外にいるということに馴染みがないせいか、何となく焦りを感じた。

 デパートから、地下街を通って、人波に揉まれながら駅の方へと向かう。

 スカートのサイズを確認するのに何軒もお店を回ったせいか、すっかり混雑する時間帯に差し掛かってしまった。

 ショルダーバッグとデパートの紙袋を抱え、来た電車に乗ろうとした時、あまりにも人が多いので一瞬ためらい、電車の中へと進める足を上げ損なった。

 ところが、麻衣の足にはホームに戻るという選択肢はなく、そのまま人の流れでなだれ込むように、体が電車に押し込まれていった。

 あらら・・・・・・。

 頭よりも腰から先に電車に乗ったようなみっともない格好になり、周りにぐいぐいと押されて、乗車した扉とは反対の扉横にあるてすりと座席の仕切り壁のコーナーにたどり着くと、不用意な持ち方をしていたので、バッグとデパートの袋が背中の方に回ってしまった。

 何とか体をひねって、ショルダーバッグは体の側にくっつけられたものの、デパートの袋は、低めの位置で人の体の間に挟まっている。

 これ以上引っ張ると、持ち手の部分からちぎれてしまう可能性があると思った。

 頭の中で確認をすると、幸い液体のこぼれるようなものは入っていないことを思い出し、少し安心をする。

 電車の揺れで、人が少し動けば隙間が出来るのではないかと思ったが、みんな窮屈な思いをしているのは同じらしく、逆に周囲が詰まって来るような気さえしていた。

 無理やり動いたら、周囲の人にぶつかって不快な思いをさせてしまうのに違いない。

 仕方がなく、紙袋を持った右腕が背中に回ったままの姿勢で次の停車駅を待つことにした。


 ところが・・・・・・。

 しばらくすると、後ろに回った右手の甲辺りに違和感を感じた。

 何か弾力性のある硬いものが当たる。


 カバンかしら?

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