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幸せの欠片
第9章 クラブで
 やがて、車の準備が出来たという櫂の知らせで地下のパーキングへ降りると、外からは車内が見えないように、窓に黒いシールの貼られたワゴン車に乗せられた。

 車には、谷口も同乗している。

 乗ってすぐに、デボラが麻衣に首輪をつけ、手首にも鎖のついた手錠のようなベルトが装着された。

 更にアイマスクで目隠しをされると、どこへ行くのかと不安になった。


「どこへ連れて行くのですか?」

「心配しなくても大丈夫ですよ。アイマスクは、着いたらすぐに外します。ご主人はそう遠くない所でお待ちです」


 谷口は、当然のように言うが、目隠しまでするなんて普通とは思えない。


「何も説明を聞いていないのですか?」

「聞いていません」

「では、簡単にご説明しますが、ご主人はご自宅ではなく、ある施設でお待ちなのです。そこへお送りする約束なのですよ」

「え?」


 もしかすると、夫も麻衣と同じように、拘束されているのではないかという疑問が湧き起こった。

 カルト集団が人を誘拐する事件を思い出し、ゾッとした。


「夫は無事なんですか?」

「麻衣さん、何か勘違いしておられるようだが、ご主人の命令と言ってもいい。私たちは指示に従っているだけなのですよ」


 ますます訳がわからなかった。



  それから、しばらく沈黙が続いた。

 20分も走っただろうか。

 途中、ETCのゲートを通った時の音声が聞こえたが、やがて舗装のよくない道路に入った。

 山の中だろうか。ピキピキという小さな木の枝を踏むような音をしばらく聞いて、車がスピードを落とし、バックしたのがわかった。

 停止すると、「さぁ、着きましたよ」と谷口が告げ、扉を開く音がした。

 デボラが麻衣の手を取って導く。

 車の外へ降りると、空気がひんやりし、少し肌寒かった。


「何も障害物はないから、まっすぐ歩いて」


 デボラは、鎖で繋がれた麻衣の手を放すと、肩を抱くようにして歩いた。

 建物の中へ入り、バッターンと重そうな鉄の扉の閉まる音がしてから、アイマスクが外された。

 そこは、大きなダンボール箱のたくさん並んだ倉庫のようだった。

 デボラに従って、木枠で保護された製品の間の通路を歩き、一番奥まで行くと事務所があった。


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