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行こうぜ、相棒
第12章 Up Where We Belong
「彼は嵐の中で輝く男だからね」
ヨコタ、と名乗ったその男性は、コーヒーカップを置きながら、そう言った。
「嵐の中で輝く?」
エリはその言葉を繰り返した。
「そう。状況が悪くなればなるほど、真価を発揮する。そういうタイプさ」
「平時の日本じゃ、生きていきづらいタイプってコトですか?」
ハハ、とヨコタは笑った。
「そうだね。確かにこの国じゃ、水から上がった魚のように不器用になるのかもしれないね」
太った髭面の男だった。
半島に出かけてしまった柏木から、微博のビデオチャットでエリの家に忘れ物をしたことを告げられ、それを届けにエリは新市街の国連難民高等弁務官事務所極東駐在所に訪れた。
ロビーの受付で用向きを伝えると、奥のオフィスからヨコタと名乗るこの男性がやってきた。
普段の柏木の様子を知りたくなったエリは、ロビーに併設されていたカフェに彼を誘ったのだった。
アハハ、と今度は口を大きく開けて彼は笑った。「ウチは軍隊さんじゃあないからね。鉄砲なんて持ってないよ。でもあいつは、そんな丸腰の格好で野戦軍の将軍と難民の安全についての交渉をするからね。スゴい奴だよ。まるで――」
と言って、ヨコタは不意に口をつぐんでしまった。
テーブルに不自然な沈黙が降りた。
「何ですか? 言ってください」
エリが詰め寄ると、ヨコタは両手のひらを広げてみせた。
「ゴメンゴメン。不謹慎なことを口走りそうになったんだ。『まるで死ぬのが怖くない』みたいなさ。彼と親しいあなたに言う言葉ではなかった」
そう言ってヨコタは詫びてみせた。
フフ、と今度はエリがヨコタに笑い返した。
「彼は怖がっていますよ。戦争も、戦場も。でも、それをうまく表現できない。そういうひとなんですよね」