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行こうぜ、相棒
第7章 No One Is To Blame
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ジムのカウンターでワーカムを出し、タッチポイントにかざして今日の清算をする。水に濡れた髪はきちんと乾かし、来た時と同じような身支度に整えた。
「おつかれさま」
と、声をかけてくれたのは、先ほどプールサイドでエリを見ていた女性の職員だ。
「左足、今夜少し痛むかもしれないわ」と、彼女は言った。
「おかしい泳ぎ方してた?」
「少しだけ、バランスが崩れてたかも」
同性、同世代のふたりは、気心の知れた友人同士の関係でもある。
「わかった。ストレッチの必要があるってことね?」
「それが賢明ね」
そういって片手を上げた彼女の肩越しに、ロビーに置かれたテレビ画面が目に入った。
音を消して放送されているニュース専門チャンネル。どこかの国の紛争に、国連が介入している、と伝えていた。
そこに、あの男が写っていた。
まるで、奇跡のように。
エリの中で世界は時を止め、音を失った。
何人かのスーツ姿の国連職員のなかで、ひときわ大柄でエラの張った、いかめしい顔をしたあのモンステラの男が写っていた。
「どうかしたの?」
ジムの友人が声をかけてくれる。
エリは急激に気圧が変わり、地上に引き戻されたことを知った。
「あ、いまあのテレビに知り合いが。ねぇ、テレビの音を聞かせてくれる?」
友人はカウンターの中からリモコンを操作してくれた。
「――お伝えしました通り、昨夜国連の難民高等弁務官の一団が旧ソウル入りしました。朝鮮共和国政府と一部反抗勢力による内乱の恐れを警戒し、一般市民が旧ソウルを離れつつある状況を警戒しての行動だとの説明がなされています。
では次のニュースです……」